東京高等裁判所 平成7年(ラ)928号 決定 1996年11月21日
抗告人
株式会社エドケンファイナンス
右代表者代表取締役
井本一夫
右代理人弁護士
浅香寛
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一 抗告人の主張
1 抗告の趣旨
無剰余を理由として本件不動産競売手続を取り消した原決定を取り消し、競売手続を続行する旨の裁判を求める。
2 抗告の理由
別紙執行抗告状の「抗告の理由」欄記載のとおりであるが、これを要約すると、次のとおりである。
本件不動産競売手続は、原抵当権の抵当権者である抗告人が、転抵当権者である東洋信託銀行株式会社(以下、東洋信託という。)の承諾書を添付して申し立てたものであるが、東京地方裁判所は、目的不動産の最低売却価額が手続費用及び差押債権者の債権に優先する債権を弁済して剰余を生ずる見込みがないとの抗告人への通知をした後に、本件競売手続を取り消す旨の決定(原決定)をした。しかし、原抵当権者である抗告人は、転抵当権者の承諾を得て、同転抵当権者に配当を受けさせる目的をもって申立てをしたのであり、原抵当権者への配当の見込みがないとしても、転抵当権者に対する配当の見込みがある以上、転抵当権者への配当により原抵当権者(抗告人)の転抵当権者(東洋信託)に対する債務が減少するのであるから、実質的に抗告人に対する配当の見込みがあることと同一である。したがって、剰余を生ずる見込みがないことを理由として本件競売手続を取り消した原決定は、違法かつ不当である。
二 当裁判所の判断
1 本件記録によれば、以下の各事実を認めることができる。
(1) 抗告人は、平成五年一〇月五日、東京地方裁判所に本件不動産競売手続を申し立てたが、目的不動産には、それぞれ、平成一年六月二〇日、原因同日金銭消費貸借同日設定、抵当権者を抗告人、債務者を株式会社セールスプロモーションサービス、債権額金一億三六〇〇万円(利息年6.24%、損害金年一八%)とする抵当権設定登記がされており、さらに右同日、原因同日金銭消費貸借同日設定、転抵当権者を東洋信託、債務者を抗告人、債権額金一億三六〇〇万円(利息年5.2%、損害金年一四%)とする右抵当権の転抵当設定登記がされていること。
(2) 本件不動産競売の申立書には、転抵当権者である東洋信託の「抗告人が単独で抵当権の実行による競売申立てをすることについて異議なく承諾する」旨の承諾書が添付されていたこと。
(3) 東京地方裁判所は、平成五年一〇年七日、本件不動産競売開始決定をしたが、その後目的不動産の評価を得た結果、最低売却価額は金四三九九万円であり、手続費用及び抗告人の債権に優先する転抵当権者の債権金一億四五五〇万円(見込額)を弁済すれば剰余を生ずる見込みがないことが判明したため、平成七年六月一六日、抗告人に対し民事執行法六三条一項の規定に基づく通知をし、同通知は同月二一日到達したこと。
(4) しかし、抗告人は、右の通知を受けた日から一週間以内に、手続費用及び優先債権の見込額を超える額を定めて同法六三条二項に規定する申出及び保証の提供をしなかったし、また剰余の生ずる見込みがあることを証明することもしなかったため、東京地方裁判所は、同年七月四日、本件不動産競売手続を取り消す旨の決定(原決定)をしたこと。
2 ところで、民事執行法六三条一項にいう「剰余の見込みがないと認める」か否かは、競売手続申立てに係る担保権の被担保債権に対する弁済(配当)の見込みがあるか否かを基準として判断されるべきものと解されるところ、本件においては、右に認定したとおり、執行費用及び転抵当権者への弁済をすれば、原抵当権者である抗告人の債権に対する弁済がされないことは明らかである。したがって、抗告人において同条二項の手続きをとるか転抵当権者である東洋信託が二重開始の申立てをしない限り、無剰余取消しは免れないことになるが、本件においてこれらの手続がとられていないことも、右認定事実及び本件記録上明らかであるから、剰余を生ずる見込みがないことを理由として競売手続を取り消した原決定は相当である。
抗告人は、転抵当権者である東洋信託の承諾のもとに、原抵当権者である抗告人が競売を申し立てたものであり、転抵当権者への配当があれば、原抵当権者の転抵当権者に対する債務が減少するのであるから、原抵当権者への配当があった場合と同一であり、原決定は違法である旨主張する。なるほど、転抵当権者への配当は原抵当権者のする弁済となり、一方抵当権設定者にとっては原抵当権者に対し弁済したことになるのではあるが、そもそも、無剰余取消しの制度は、差押債権者(原抵当権者である抗告人)に配当がない無益な執行を防止するとともに、換価権行使の時期を選択することのできる地位にある優先債権者(転抵当権者である東洋信託)の利益を保護するための制度であるところ、前記のとおり、本件においては、原抵当権者への配当の見込みはなく、転抵当権者から二重開始の申立てもされていないのであって、原抵当権者への配当がされる場合と同一とはいえないから、抗告人の右主張は理由がない。
なお、原抵当権者が単独で競売申立てを行う場合には、転抵当権者の承諾を必要とする扱いをしているが、これは、原抵当権者が勝手に競売の申立てをすることによって転抵当権者の利益を害することがないようにとの配慮からされているものであり、右承諾が後に無剰余となることが判明した場合における無剰余取消しの回避の趣旨までを含んだものと解することはできず、また、右承諾が転抵当権者の二重開始の申立てと同一の効果を生じさせるものでないことも明らかである。
3 以上のとおり、抗告人の主張は理由がなく、その他本件記録を精査しても、原決定を取り消すべき事由は認められないから、本件抗告を棄却し、抗告費用は抗告人の負担とすることとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官永井紀昭 裁判官小野剛 裁判官山本博)
別紙執行抗告状<省略>